子どもの股関節脱臼(こかんせつだっきゅう)はどんな病気ですか?
股関節は脚の付け根にあり、骨盤と大腿骨(だいたいこつ)を連結しています。大腿骨の頭のボール部(骨頭(こっとう))は骨盤のソケット部(寛骨臼(かんこつきゅう))に覆われていますが、これが外れている状態を股関節脱臼といいます。
以前は「先天性股関節脱臼」といわれていましたが、必ずしも先天的な要因のみで発症するわけではないことがわかったこともあり、股関節が完全に脱臼している状態に加えて、さまざまな程度に不安定になっている状態を包括して、「発育性股関節形成不全」というようになりました。
産まれた赤ちゃんの1000人に1〜3人程度でみつかります。昔はもっと多くいましたが、股関節をおむつや着衣でのばして固定しないこと、などといった予防活動によってかなり減りました。しかし減ってきたことによって注意されにくくなったのと、赤ちゃんでは脱臼したままでも痛がらずそのまま放置していても歩けるようになるので、脱臼に気づかずに大きくなってしまう割合が近年増えています。
どのような治療がありますか?
脱臼している骨頭を寛骨臼の中に戻し、また外れないように安定させる必要があります(整復)。しかし子どもの骨頭は軟骨の成分が多く非常に幼弱なため、無理な操作で傷つけてしまうと、将来変形して痛みや歩行障害の原因になってしまいます。
生後2か月くらいまでは骨頭が極めて弱いのと、股関節の姿勢に気をつけることで自然によくなることもあるので、特別な治療は行いません。
生後3〜6か月までは、リーメンビューゲル装具というベルトを体に巻いて、股関節の格好を整えます。この装具治療は外来通院が可能で70〜80%くらいで整復されますが、整復されない場合に強引にがんばりすぎると骨頭を傷つけるため、次のステップに移る必要があります。
生後6か月以降では施設によりさまざまな治療法がありますが、当センターでは、股関節を持続的に牽引して徐々に戻していく方法(オーバーヘッドトラクション法)を採用しています。徐々に戻すことで負担は少なく骨頭障害が生じる可能性は低いですが、長期間の入院を要します。
3〜4歳以降では、基本的に手術治療が必要です。
このように、できるだけ早く診断し、治療を開始できれば負担が少なく済みます。
どうやって診断するのですか?
股関節が脱臼していると、股関節の開きがかたい、脚の付け根の皮膚の皺しわが左右非対称、左右の脚の長さが違うなどの所見を示すようになりますが、これらの所見が絶対みられるわけではありません。主に乳児健診で指摘されることが多いですが、気づかれないこともあります。また、女児、骨盤位分娩(こつばんいぶんべん)、股関節形成不全症の家族歴(ご家族に同じ病気の方がいる)では、股関節脱臼の可能性が高いことが知られています。
画像診断では、一般的にはX線写真撮影で診断します。しかし骨頭がほぼ軟骨成分で、まだ十分に骨の成分になっていない乳児早期には、X線写真でも関節の適合性を判断することが難しい場合があります。また、X線撮影には少量とはいえ放射線被ばくの侵襲(しんしゅう)(体への負担)があるため、正常である可能性が高い子どもに対する検査としては抵抗があります。
別の方法としては、超音波検査があります。超音波検査では軟骨部分もはっきり観察できるので、乳児早期の診断に適しており、放射線も使用しません(写真、図)。
そのため、当センターでは低侵襲かつ早期の診断をめざして、産まれた赤ちゃんで先に示したような所見がある場合には、できるだけ早い時期に受診してもらい、専門外来で診察・超音波検査で診断する体制を整備しています。
ご家庭でも簡単にチェックできますので、当てはまる場合や心配な場合には、早めに整形外科へご相談ください。
診療科紹介
当科で扱う主な疾患
- 股関節疾患:乳幼児股関節脱臼、ペルテス病、大腿骨頭すべり症など
- 下肢・足部疾患:先天性内反足、O脚、X脚、外反偏平足、麻痺性足部変形、歩容異常など
- 脚長不等、変形:片側肥大・萎縮症、外傷後遺症、先天奇形症候群など
- 上肢疾患:肩肘手の先天性疾患、スポーツ障害など
- 筋、神経疾患:脳性麻痺、二分脊椎、筋ジストロフィーなど
- 外傷:骨折、脱臼、骨折後の変形など
- 炎症性疾患:化膿性関節炎・骨髄炎、単純性関節炎、若年性特発性関節炎など
- 脊椎疾患:側弯症、椎間板ヘルニア、脊椎分離症など
- 斜頸:筋性斜頸、炎症性斜頸など
- 骨系統疾患:骨形成不全症、軟骨無形成症など
- その他:くる病などの代謝性疾患、膠原病、血友病性関節障害、小児の良性骨軟部腫瘍など
当科の特色
- 子どもが本来持っている自然改善能力を十分理解し、成長が終了する成人期の状況を見据えて、常に長期の治療戦略を立てながら、日々の治療を行っています。
- 整形外科疾患は適切な時期の適切な手術が必要なことも多いですが、常にそれに代わりうる保存的な治療法がないかも考えながら、治療を行っています。
- 治療や検査を行うにあたり、常に子どもたちの視線にたって対応するように、スタッフ一同努力しています。